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恩師からの本

2017.04.19

 久しぶりのことです。私の設計の恩師、IK様から連絡をいただき、大切にされた建築関係の本、数十冊を贈るからもらってくれといわれ「はい」と返事をした。
 翌日、事務所へみかん箱で到着、残りはもう一度、眼を通し二便で送るとメモがあった。
私が建築学科を卒業し、先輩の声かけで入社した開設一年目の設計事務所、当時は新橋の浜松町寄りのビルの4階にあった。私の最初の仕事、日本アルプスに建つ写真家の山荘、斜面のラインを引き一ヶ月が過ぎたまま、次の新しい仕事のスケッチを描いて客に見せ誉められ,実施の段階で法的にそのままは建たないことが判りポシャッタ、建築に法律があることさえ認識なかった私を、自由に設計を任せてくれた所長、恩師からの贈り物だった。

 蛇足になるが、恩師の影響か、私は事務所を開設以来、若いスタッフから提案が出るとうれしく、実現へと意気込む。恩師流は継続している。
 さて、本の贈り先、多勢のスタッフの中で私を選んでくれた恩師、今でも八重洲で建築コンサルタント事務所を開き、最近は「マンションの老朽化と住民の高齢化」などの相談に取り組んで居られる。

 六年前、東京都下小平の圓龍寺の建立事業で、師より設計をいただき、本堂を四万十川源流の地で取れた柱梁で、会館庫裏を鉄筋コンクリートで造った。師は寺院建築を多く手がけられ、私の退職後、長野・津金寺の鐘撞堂の設計をいただき、感謝した、そして又感謝。
 趣くまま本を手にページを巡る、気になり本の出版日をみると、私が師の事務所を退社した年、世の中がオイルショック後の景気悪化の時代、仕事の手が1人少なくなった時でも、こんな全集本を見ていたなんてと思いつつお礼の電話をしたところ、もらってくれてよかった、後はどうなってもいいんだよ、と。全集本を購入された時期は厳しかったでしょうとお聞きしたら、「ウスイチャンがいなくなりさびしいから本を相手にしていた」なんて、泣けちゃう話。

 贈られた本は、日本の建築 明治大正昭和十巻、白井晟一 無窓、磯崎新 建築の地層、芦原義信 街並みの美学、谷口吉郎 せせらぎ日記や民家、町家、数寄町家、禅家など。
 本は古いが、中は斬新、本が好きな私が、そのほとんどが初めての本、興味深深で休みに読み続ける。
設計を志した頃に逆戻れとまでは欲ばらないが、先が見えない歳まで戻れるなら今日はその出発点だと意気込み、苦笑する。

㈱像建築設計事務所 臼井洋司